性別変更により男性になった夫との婚姻中に懐胎して生まれたこの父親は誰?
夫が、「性同一性障害・GIDの性別の取扱いの特例に関する法律」(特例法)にもとずき、婚姻前に女性から男性への性別取扱変更審判を受けた者ケース。
自然妊娠が望めないため、妻が夫との婚姻中に人工授精によって妊娠し、子を出産したケースにおいて、子の戸籍上の「父」欄が空欄となっているのはおかしいとして、戸籍訂正許可申立をした事件において、最高裁平成25年12月10日は、「父」欄に夫と記載する旨の戸籍訂正を許可する決定をしました。
性同一性障害の性別の取扱いの特例に関する法律は、平成15年に成立した法律ですが、生物学的な性別と心理的な性別が一致せず、他の性別であることについて持続的な確信を持っており、2人以上の医師の診断が一致している等の性同一性障害・GIDについて、性別取扱変更審判がなされると、民法その他の法令の適用について他の性別に変わったものとみなしています。(特例法4条1項)
この点、民法は、夫との婚姻中に懐胎した子は夫の子と推定する、いわゆる嫡出推定規定(民法722条)を設けていますが、判例上は、妻がその子を懐胎すべき時期に夫が服役しているとか、夫婦が事実上の離婚をしていて夫婦の実態が失われていた等の事情が存在する場合には、同条の推定を受けないとする判断がされてきました。
本判決(東京高裁平成24.12.26)も、夫と妻との間の血縁関係が存在しないことが明らかな場合においては、民法722条を適用する前提を欠くとして戸籍変更申立を却下していました。
これに対して、最高裁は、「一方で性別取扱変更の審判を受けた者に婚姻することを認めながら、他方でその主要な効果である民法722条の適用を認めないことは相当ではない」として原決定を破棄しました。
日本産婦人科学会によれば、日本では1948年からドナー精子の提供を受けて母体への子宮腔へ注入する人工授精(非配偶者間人工授精AID:Artificaial Isemination of Donor)が行われています
最近では、体外に受精させた受精卵を子宮腔へ注入する体外受精の医療技術が進歩し、精子だけでなく卵子や杯の提供も技術的には可能となっており、様々な問題に法整備が追いつかず未解決で残されているのが現状となっています。
本判決は、こういった未解決だった問題のひとつについて結論をだしたものと言えます。